過激なタブー表現で話題となったWeb漫画『ファイアパンチ』の面白さについて考える

公開日: : マンガ       

  

会社員A@クリーニングスです。

ジャンプ+で連載されている無料のWeb漫画『ファイアパンチ』ですが、その連載第1話があまりにも面白いということで、掲載後すぐにネットで話題になっていました。

参考:ジャンプ+新連載「ファイアパンチ」の衝撃と迫力がネットを席巻中 「近年希に見るインパクト」「完璧な第1話」と大絶賛

そこで主に取り上げられているのは、とても本家の少年ジャンプには載せられないような数々の過激なタブー表現なのですが、一歩間違えると炎上しかねない手法にもかかわらず、なぜここまで話題を生み出すことになったのか、今日は少し考えてみたいと思います。

なお本記事は作品のネタバレを含むため、こちらで『ファイアパンチ』を読後に読まれることををおすすめいたします。

firepunch

『ファイアパンチ』の世界観

まず簡単に『ファイアパンチ』の世界観を振り返っておきますと、そこは「祝福者」と呼ばれる特殊能力者が存在する世界です。この能力は炎や氷を操るといった、一般的にフィクションでよく描かれる、いわゆる「超能力」的なもの。

その祝福者の中でも特に強い力を持っていると思われる「氷の魔女」と呼ばれる存在により、世界は「雪」と「飢餓」と「狂気」に覆われるという、『アナと雪の女王』をシリアスにして300倍くらい悲惨にしたような状況になっています。

主人公は「肉体再生能力」を持つ祝福者の少年「アグニ」と、同じく兄には及ばないまでも再生能力を持った妹「ルナ」で、寂れた村で懸命に生きる2人の描写から物語は始まります。

食人のタブー表現

物語の開始後、いきなり見開きで描かれるのは、主人公アグニが自分の腕を切って村人に食べさせるために配って回るという衝撃的なシーン。ここでやっていることは実質アンパンマンと同じなのですが、これをリアルに描写されるとインパクトがすごいです。

肉体が再生する能力者を主人公にした漫画としては、最近だと『亜人』、一昔前だと『3×3EYES』や『無限の住人』など多数あるのですが、これらはいずれも非日常的なバトル要素が強く、この『ファイアパンチ』のように日常的な描写で「肉体を食料として配給する」という表現は極めて異色かつ斬新だと思います。

また、かつて『マイナス』という漫画においても食人の描写があったのですが、それが主人公による利己的な動機によるもので、かつコミカルに描かれていたことから、今回のように評価されることはなく炎上し、雑誌の回収騒ぎにまで発展してしまいました。(作品自体は個人的には大好きです)

一方『ファイアパンチ』においては、生きるために食人をせざるを得ない舞台設定と、食人が日常に溶け込んだ村の風景が、冒頭の短いページ数でストイックに描かれています。その結果、この世界がいかに病んでいて異常であるかを「静かな狂気」として簡潔に表現することに成功しており、ポジティブな評価に繋がったと考えられます。

近親相姦のタブー表現

冒頭の食人の風景から間髪入れることなく描かれるのは、寝室で妹ルナから「子供を作りませんか?」と迫られ、主人公アグニが困惑するシーン。

これも成人向け漫画の世界ではいくらでも描かれてきた、いわゆる「妹萌え」的なタブー表現なのですが、村にはこの2人の他に若者がおらず衰退の運命にあるという舞台設定と、先ほどの異常な食人表現の後であれば違和感なく読めてしまいます。

すでに食人が日常となっている狂った世界で、いかに主人公たちもまともな倫理観でいられなくなっているか、そしてこのような行動に走らざるを得ないほど切迫した精神状態であるかが、この短いシーンから痛いほど伝わってくるからです。

これらの2つの表現は、いずれも人類最大級のタブーとされているものですが、それをせざるを得ないほどの「世界観」と「やむを得ない状況」によって、すべての行為が正当化されるという難しい表現に挑戦したのがこの第1話の冒頭であり、その試みは見事に成功しているかと思います。

理不尽な暴力表現の繰り返し

上記のシーン以後は、理不尽な暴力表現が多数登場します。

まずは食人をしていたアグニの村の住人に対する、謎の兵団による虐殺行為。ここでは「焼け朽ちるまで消えない炎」の能力を持った祝福者によって村人が皆殺しにされるのですが、この時の焼死体の描き方がまた異常なくらいリアルです。

そして、その炎の力に妹ルナの再生能力は追いつかず死亡、主人公アグニは不死のまま8年間焼かれ続けるという地獄のようなシーンが、これまたリアルに描写されます。これをきっかけにアグニが戦闘能力を手に入れることになるのですが、同時に復讐の狂気にも取りつかれることになりました。

その後も、兵団による一般人の強制連行や虐殺、奴隷に対して飲尿を強制するなど、ゲスの極みとしか言いようが無い描写が続きます。そこに現れたアグニの炎によって兵団の一部隊は全滅し、再び大量のリアルな焼死体の見開きカット。

続く第2話ではアグニの過去の回想に入るのですが、強盗に両親を殺された上で自宅に監禁され、アグニに対しては容赦ない暴行、ルナは焚き火の燃料として何度も腕を切り落とされ、しまいには性的な暴行を受けそうになる(しかも当時は幼女)という陰惨なシーンが連続します。

邪推ですがこの時に受けた精神的なショックによって、ルナが前述のように性的に倒錯した行動に走ってしまったと読み取れなくもありません。

このように『ファイアパンチ』には、要約だけでも気分が悪くなりそうなほどの理不尽な暴力シーンが、たった2話の間にこれでもかというくらい詰め込まれていました。

これらの表現はアグニの村だけでなく、いかにこの世界全体が狂っていて、救いようのない状態に陥っているかを雄弁すぎるほどに語り、暴力を通じ「雪」と「飢餓」と「狂気」を一貫して描き続けることで、読者を一気に作品の世界観へ引き込むことに成功しています。

なぜ過激な表現が人の興味をひきつけるのか

以上で紹介したように、『ファイアパンチ』は連載開始早々、過激なタブー表現、暴力表現のオンパレードでした。

これは一歩間違えると炎上に繋がり、単に残酷表現を並べただけの安っぽい作品にもなりかねないアプローチなのですが、そのようなシーンが「必然的に起こらざるを得ない」世界観をストイックに描くことによって、評価を得ることに成功した稀有な作品だと言えるでしょう。

また、タブーというものは「日常の中における非日常」であり、誰もが意識の底に願望として持っているものです。それをフィクションの中で描き、タブーを正当化できるような世界観や、タブーを犯すことに戸惑う人間の姿をリアルに描写することは、読者の隠された願望を満たすことにも繋がります。

これは古代ギリシアやシェイクスピアの時代から存在する「悲劇」のテンプレートであり、食人や近親相姦といったタブーの表現はその中に組み込まれた古典的なテーマでもあります。しかし近年のエンタメ作品ではそのようなテーマを避ける傾向にあるため、ある意味『ファイアパンチ』は古典的な「悲劇」の原点に立ち返った作品であると言えるかもしれません。

今後の『ファイアパンチ』に期待すること、学んだこと

とりあえず「単なる能力バトルになって欲しくない」のと、「過激な表現をウリにする方向にも走って欲しくない」と思います。いずれも安っぽい作品になるので、絶妙なバランスを維持しながら最後まで描ききって欲しいと願うばかりです。

また、『バクマン』などでも描かれているように、ジャンプは人気投票システムがシビアなことで有名ですが、これまでも斬新で意欲的な作品が打ち切りになったケースが多いため、無料のWeb漫画というプラットフォームで『ファイアパンチ』のように挑戦的な作品が今後も増えてくれると、一介の漫画ファンとしては嬉しく思います。

最後に、このように偉そうにいろいろ語っているのですが、実は半分くらいは自分自身に向けて言い聞かせている部分もありまして、とにかくフィクション作品というものは「世界観が大事」であり「単に過激な表現だけでは面白くない」ということを、今回は改めて感じさせられました。

漫画もゲームアプリも、フィクションである限り本質は同じかと思いますので、これからも『ファイアパンチ』の展開を楽しみにしつつ、いろいろ勉強させて頂きたいと思う次第です。

というわけで、明日の月曜にはまたジャンプ+で最新話が公開されるので、是非お読み頂ければと軽く宣伝しつつ終わりますw

  

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